【脳梗塞の出版局長】麻痺しているのは右手先だけでなく身体の右半身 「下手したらこのまま人生終焉」の乗り越え方【真柄弘継】連載第6回 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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【脳梗塞の出版局長】麻痺しているのは右手先だけでなく身体の右半身 「下手したらこのまま人生終焉」の乗り越え方【真柄弘継】連載第6回

【新連載】脳梗塞で半身不随になった出版局長の「 社会復帰までの陽気なリハビリ日記」163日間〈第6回〉

 

◆転院78日目、患者さんたちの顔ぶれはガラリと変わる

 

◾️9月10日水曜日

今月になり私が入院したときには既にこの病院にいた方々が続々と退院されていった。

昨日は同じ脳梗塞で入院され、最初の頃は抱えられて入浴していたK保さんが歩いて退院された。

ここ半月ほどは病院の中を杖も使わず歩かれていたK保さん。

退院の際は杖を持ってはいたが、念のためということだそうだ。

転院78日で患者さんの顔ぶれはガラリと変わった。

60人いる人たちで挨拶交わす人はほんの僅かとなった。

不思議なもので、自分より先にいた方々には気軽に挨拶できたのに、あとから来た人とはほぼ挨拶もせず。

あと72日は淡々と過ごすのだろう。

まあ、リハビリテーション病院とは本来はそういうところなのかもしれない。

午前中は二つとも足のリハビリ。

トレーニングルームと外の駐車場とを歩き、500メートルほどを歩けるようになった。

ここからは歩き方(階段や段差)も大切なことだけど、距離を延ばして体力をつけていかないといけない。

 

隣の部屋に新しい患者さんが入ってきて、主治医の先生始め各担当のスタッフが集まっているのを見て、私が入院した日を思い出した。

まだ道半ばではあるが、あの日から2ヶ月半が過ぎたのだ。

ここは身体や頭に負った障害を、日常生活を限りなく普通に過ごせるように、リハビリで回復をはかる場所。

退院する患者さんがいれば、新たに入院してくる患者さんがいるところ。

私のゴールはまだ先だけれど、そこにたどり着くまで私自身出来ることを地道に続けるのみ。

午後は指と腕のリハビリ。

どちらも足のような劇的な変化は望めないから、地道に毎日続けていくしかない。

夕食を終えたら就寝までいつものように時間を遣り過ごす。

明日に向けてゆっくりと眠りたいものだ。

 

◾️9月11日木曜日

今朝は3時のトイレのあと、ゆっくりと眠れて4時40分に起床。

なんとか健康な頃の5時起床に戻して、朝の時間を無為に過ごすことのない生活をしたいものだ。

今はまだ9月だから朝6時でも空は明るいけど、退院期限が近づく11月には暗くなってるんだろうな。

体重は2週間に一度計測するが、順調に無駄肉を落としており、83キロまでになった。

このまま落ちてくれたら、およそ8キロは減量できるぞ!

夢の70キロ台も見えてきた。

 

朝食の前に今日退院するN中さんにお別れの挨拶をする。

N中さんは去年11月に脳出血で入院され、こちらのリハビリテーション病院へ3月に来られた。

ほぼ一年ぶりの帰宅である。

N中さんは高次脳機能障害があって180日間入院されている。

最後まで食堂にて見守られ、リハビリと寝るとき以外はそこで過ごしていた。

朝は「おはようございます」、リハビリに行くときは「いってらっしゃい」、戻ってきたら「おかえりなさい」、夕食終わって食堂を出るときは「お疲れ様でした」、寝る前は「おやすみなさい」、と顔見知りの患者さんに声を掛けてくれた優しい人である。

これまで退院された方への挨拶は朝食の前後だった。

今回は運良く退院時間午前10時の直前で席におられたから、ゆっくりと別れの挨拶が出来たのだ。

「お元気で! グッドラック!」

N中さんは家族に寄り添われて笑顔で元気に退院していった。

 

リハビリはスタートが遅く、午前中は足が二つで午後は手と足。

今日は装具が納品となり、靴は来週火曜日となるが、明日からはマイ装具で足のリハビリが出来るのだ。

外界は不安定な天気で午後には雷が鳴り響き豪雨の時間が続いた。

しかしリハビリテーション病院の中で過ごしている身としては、まったく関係ない。

健康なときは不安定な天候でゲリラ豪雨とかにワクワクしたものだ。

だが身体障害者となった今は、退院してこんな天気に遭遇したらたまったものじゃない!

週も半ばを過ぎると体力的に疲れてきたのか、夕食前には眠くてしかたがない。

なのに就寝したあとに何度も目が覚めるのだから厄介このうえない。

夕食を終えたら普段以上に早寝をしたのだった。

 

◾️9月12日金曜日

昨夜は夕食のあと6時半にはシーパップつけて早々に就寝。

21時と23時に尿意、午前3時に便意をもよおし起きてしまった。それからはなかなか寝つけずに結局4時に起床。

それでも普段と比べて格段に寝た一夜である。

今日は1時間のリハビリが3回。

まずは足のリハビリで、自立4に向けたチェック項目の予行練習。

部屋から廊下を歩いて食堂へ行き、自分の席の椅子を出し入れ出来るかをみられる。

杖を立て掛け椅子を引いて座る。

次は椅子から立ち上がり元の位置へ椅子をしまう。

そこから部屋に戻って練習終了。

車椅子から杖に変わることで左手を自由に使えなくなる。

これまでのように紙コップで飲み物を運べなくなるのだ。

その辺のことの対策を考えねば。

新聞は杖と一緒に持てるような気がしてるから、次の予行練習のときにチャレンジしよう。

あと二つはどちらも手。

メルツで指の練習と、腕のストレッチ。

どちらも地味なのだが、疲労感は足のリハビリと同じなのが不思議である。

15時でリハビリは終わり。

いつもなら自主トレでマシンを踏みにいくのだが、昨日からの疲労感を考え自重。

けれど何もしない時間が苦痛で結局マシンを踏みに行ってしまった。

 

今日も晩御飯が終わったら早々に就寝。

歩きの距離を延ばしてきているので、運動量も格段に増えてきた。

体力不足が疲労感に直結している。

それでも明日で今週の頑張る日は終わる。

日曜日は自主トレとリハビリ以外はだらだらと過ごす休息日。

その前に自主トレもリハビリも追い込んでいこう。

次のページ麻痺してから手先だけでなく、身体の右半身が固くなっていく

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真柄弘継

まがら ひろつぐ

現役出版局長

1966年丙午(ひのえうま)126日生まれ。

1988年(昭和63)に昭和最後の新卒として出版社に勤める。

以来、5つの出版社で販売、販売促進、編集、製作、広告の職務に従事して現在に至る。

出版一筋37年。業界の集まりでは様々な問題提起を行っている。

中でも書店問題では、町の本屋さんを守るため雑誌やネットなどのメディアで、いかにして紙の本の読者を増やすのか発信している。

 

2025年68日に脳梗塞を発症して半身不随の寝たきりとなる。

急性期病院16日間、回復期病院147日間、過酷なリハビリと自主トレーニング(103キロの体重が73キロに減量)で歩けるまで回復する。

入院期間の163日間はセラピスト、介護士、看護師、入院患者たちとの交流を日記に書き留めてきた。

自分自身が身体障害者となったことで、年間196万人の脳卒中患者たちや、その家族に向けてリハビリテーション病院の存在意義とリハビリの重要性を日記に書き記す。

また「転ばぬ先の杖」として、健康に過ごしている人たちへも、予防の大切さといざ脳卒中を発症した際の対処法を、リアルなリハビリの現場から当事者として警鐘を鳴らしている。

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